片道切符で飛び乗れ

ダークな世界観が魅力のロックバンド

Immolation「Unholy Cult」

Unholy Cult | The Raven

USデスメタルで多分一番好きですImmolation。去年の来日公演は最高でした…。ドラマーの交代と共に音楽性を変えてきているバンドで、中でもAlex Hernandezなる人物が叩いていた4thと5thは、元々持っていたスケールや威厳をますます強く大きくしながら、GorgutsやDeathspell Omegaなどと共振する、不協和音を効果的に用いたカオティックな内容になっています。んで、専らバンドの代表作扱いの4thに対して本作5thはバンドのカタログの中でも地味な扱いだと感じます。がとんでもない!内容的に4thに劣るところは見当たらず、なんなら4th以上にカオティックとも言える強烈な内容なんです。それでいてどこを切り取ってもデスメタルでしかないという。高貴!Ulcerateを始め、最近の不協和音系荘厳デス(ブラック)メタルに間違いなく大きな影響を与えているはずなのに、前途2バンドと比べるとやや有難がられ度が落ちる気がするのは、異端に足を踏み入れながらもその実誰よりも正しくデスメタルしていたが故に、そっちの仲間とは認識されていないからではないかと思います。デスメタルは突き詰めれば色っぽくなるというのが持論ですが、このバンドほど色っぽいバンドってそうそういない気がしますよ。まあその点で言うとやはり前作に軍配かなって気はしますが、単なる4thのフォローアップで済ませるには惜しい内容です。今年になってUlcerateの存在を知って感銘を受けた方、絶対聴いてください。

Ripping Corpse「Dreaming with the Dead」

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デスメタルにのめり込むキッカケの一つにHate Eternalがあることもあり、エリック・ルータンのことは基本的に信頼しています。最近ではデスメタル版カート・バルーみたいになってますが、そんなルータンがデビューを飾ったバンドといえばこのRipping Corpseなのでした。こちらは唯一のフルアルバム。91年作。デスメタルデスメタルでしかないドロドロ感というものを完全に確立する以前の、スラッシュメタルから地続きの猛烈なスピードとキレ味がとにかく気持ちいい一枚です。邪悪なのにメカニカルな、異常に鋭いリフを次々繰り出してくるギター隊と、当時としては最速クラスの2バスを叩きこむドラム。いずれも統率がとれており、楽器に関してはド素人ながらかなり達者な演奏を披露しているのが伝わります。デスメタルというにはちょっと高めのデス声もこの音楽性には合ってるので問題なし。曲が短い(2分切る曲もある)のもスラッシュ的でしょうか。意外と速いばかりじゃなくて、遅いパートも結構あるんだけど、寧ろそれが当時の他のデスラッシュ系バンドにはない美点になってて、速い/遅いが双方のカッコ良さを極限まで高めているが故のカタルシス。遅いとこ単体で見ても、ルータンの後の仕事に通ずる色気や威厳を感じられて良し、と思ったけど7曲目を除いて作曲には関与してないんですね。名著、オールドスクールデスメタル・ガイドブックにて「本書ジャンルの最高傑作といいたい作品」と激賞されていたのも納得の名盤。

Helstar「Nosferatu」

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私は元々テクニカルスラッシュが好きなんですが、ここ最近「ボーカルがハイトーンで歌うテクニカルスラッシュと一部USパワーメタルってニアイコールなのでは?」ということに気付いてしまいまして、ああこんな金脈を今までスルーして生きてきた己はなんて阿呆だったのかと。そんな訳でここ最近はUSパワーメタルに結構ドップリだったんですが、その中でも特にグッときたのがこのバンド。心あるメタラーからは惜しみない賛辞を送られているらしい(専門店の通販ページとか見ると大体ベタ褒めです)一方で、そもそもがドライでクサメロや疾走曲といった日本人ウケする記号に乏しいUSパワーメタルの宿命か、少なくとも自分の観測範囲ではあまり有難られている印象はないです。70年代的な枯れ感とは無縁のメタル純正培養っぷり、スラッシュメタルから拾い上げた硬質感、ダークで甘さ控えめなメロディセンスなどはいかにも当時のアメリカってな佇まいながら、この手の大御所Metal ChurchやVisious Rumorsと比べると、このバンドは速い曲が多いのが特徴でしょうか。じゃあもうそれスラッシュメタルじゃんって言われると実際そうじゃね?っていう気もします。やたら演奏が上手くて(これもUSパワーメタルあるある)、テクいキメがそこかしこで炸裂するあたりRealmとかが一番隣人なのかもしれない。なんていうかRealmをちょっと柔らかくほぐしたらこれになるんじゃなかろうか。こねくり回したリフも撒きつつ意外にもテクニックとメロディを両立してるギターは一番の聴きどころで、泣き泣きとかではないものの真っ当にカッコイイです。5曲目のインストとか中々良い出来。後にVicious Rumorsで歌うことになるボーカルもここでは常にバカみたいに高音張り上げってわけではないものの普通に上手くて、ここぞで出てくるハイトーンもバッチリ。何の問題もなく名盤ではあるんですが、全員聴け!と言うにはやっぱり少々ニッチなとこ突いてますね。上に書いたサブジャンル及びバンド名に一つでも掠るところがある人は間違いない内容です。

Opeth「My Arms, Your Hearse」

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スウェーデンが誇る北欧の暗黒神だったらしい人たちの3rd。98年作。いくら暗黒神と言ったってこの人たちの出自はメロディックデスということは動かしようのない事実で、実際1st2ndではまだまだイモい仕上がりだったんですが、名ドラマーマーティン・ロペスが加入し、フレドリック・ノルドストロームをプロデューサーに迎えた本作で一気に洗練化・脱メロデス化が敢行されたのでした。このアルバムからがみんなが知ってるOpethの姿なんじゃないかなと。間違いなく転機作のはずなのにその後のアルバムに比べると語られることが少ない気がしたので、こんな弱小ブログが今更Opethについて書く必要があるのか…という気持ちを抑え、おこがましくも今この文章を書いています。

 さて本作、彼らのカタログの中でも比較的尺がコンパクトで、静動の比率的には動が占める割合がより多めという、メタル的エキサイトメントを最も分かりやすく享受できるであろう内容になっています。故に(Blackwater ParkやGhost Reveriesよりも)入門にはうってつけなアルバムだと思ってるんですが、どうでしょうか?また、意図的にヘヴィ寄りにしてたDeliveranceと比べても、自然体の激しさが味わい深いです。代名詞であるミカエルオーカーフェルトの清濁両刀ボーカルは本作の時点でも十分完成していて、グロウルは言うまでもなく世界最高峰(少なくともスタジオワークに限れば本当に世界で一番グロウルが上手い人の一人だと思う)、クリーン声は後のアルバムほど豊かな表情を見せてくれるではないものの、無愛想で体温低めな歌声はこの時代のデスメタルらしい感じで大変よろしいです(一部でボソボソしたクリーン声を導入するバンド、当時のデスメタルシーンには結構います)。この人のクリーン声はまず声質そのものだけで十分間が持ってしまうのがズルい。そして何より本作を名盤たらしめている名曲Demon of the Fallの存在に言及しないわけにはいかない。6:13というこのバンド屈指のコンパクトさの中にバンドの全てが詰め込まれた、物凄いインパクトを残していく曲です。2:15あたりで一旦バンドサウンドが止み、アコギだけになる→即座に咆哮・2バスとともにデスメタルに戻るっていう一連の展開だけで一体何人が恋に落ちたんでしょうか。バンドに興味はあるけどどこから手を付けるべきか分からない方、Blackwater Parkより前は遡って聴いてないという方、全員買いです。

Blood Has Been Shed「Novella or Uriel」

Killswitch Engageの二代目シンガー 、ハワードジョーンズがそのKsEに加入する前にやってたバンドの1st。00年作。この時点で自分には関係ないなと思った方、もう少し待って下さい!1曲目こそやけに壮大なイントロ~メロデス風リフ~売れ線寄り歌メロっていう曲なんですが、それ以降は極悪なボーカルパフォーマンスと極悪なゴリゴリ・ズクズク・ダウンチューニングリフで全てをなぎ倒さんとする、リキの入った極悪な内容が楽しめます。ニュースクールハードコアとかメタリックハードコアとか呼ばれているやつですね。看板シンガーのハワードは恐らくメロウな歌の実力を買われてKsEに引き抜かれたんでしょうが、ここではクリーン声の使用は最小限で、これみよがしに声を張るような感じではないので、そこまでコマーシャルな印象はなし(それでも十分上手いですけど)。それよりもメインを張る咆哮が凄まじくて、全盛期アンセルモにも迫る太さ・レンジに加え、強い粘りとコシを感じさせる声がとにかく魅力的。この人とかデリック・グリーン(Sepultura)のパフォーマンスを聴いて「やっぱり黒人には敵わねぇ…」という気になってしまうのは多分私だけじゃないはず。曲は基本的にはローミッドテンポ中心ながら、スピードのギアは結構幅広く持ってて、特にドラムは2バスもガンガン踏みながら速く重く猛烈に叩いてます(このドラマーもハワードと一緒にKsEに行ったんですね)。いやーどこを切り取ってもブルータルで素晴らしいっす。サブスクでも聴けますし、多分マケプレで500~1000円で盤も手に入るので、ニュースクールってどんなもん?という方はどうぞ。

Sinner「Touch Of Sin」

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昨日の記事の続きってことで4thです。85年作。一般的には本作がバンドの最高傑作なんですかね。一曲目が妙にヘヴィに立ち上がるので、前作から引き続きパワーメタル路線か、という印象を抱きかけますが、その後はパワーメタル的な馬力をいくらか残しつつも、原点であるThin Lizzyに立ち返ったのか、メロハー好きにもアピールしそうなグッドメロディを備えた楽曲が次々と現れます。物凄く突出した曲というものは無いながらどの曲も粒が大きく、なるほどこれは名盤の佇まいです。当時の同郷のバンドですとStormwitchなんかが近いのかもですが、ボーカルがパワフルな分こっちの方がガツンと来ます。やはりこのボーカルはパワーメタル然とした楽曲でこそ映えるのではとも思いますが、これだけ出来の良いものを提示されると、むしろこの渋めの声だからこそ甘くなりすぎない仕上がりになっている、くらいの解釈で楽しんだ方が得でしょう。気持ち表現力が増してメロウな曲の説得力も上がってる気がしますし。この後バンドは更にアメリカンなポップネスを指向して"そういう”風に洗練されてくみたいですので、哀愁鋼鉄ぶりを楽しめるのはやはり3rd4thということになりましょうか。

Sinner「Danger Zone」

現在はご存じラルフシーパースと一緒にPrimal Fearで活動中のマット・シナーの本丸バンドといえばこちら。ずっと3rdと4thのコンパチを探してて、先日めでたく適正価格での捕獲に成功したのでご登場願いましょう。こちらは84年に出た3rd。所謂ジャーマンメタルというやつですが、Helloweemのようなプロトメロスピ型とも、Acceptのような硬派型とも違うスタイル。Thin Lizzyが最大の影響源だと公言し(国内盤ライナーノーツ参照)、基本的には(当時のドイツ産にしては)そこまで芋臭くない、磨けばメジャー風にも化けそうなメロディラインで勝負するバンドだと思いますが、本作では若干のパワーメタルっ気が加わり、それがマット・シナーの暑苦しい声にはよくハマッていて良い感じです。この人の歌はダミ声で荒々しいという評価を下されがちな気がしますが、当時のメタル水準で言えば十分歌えている方だと思います(ちょっとベルギーのCrossfireのボーカルに似てる)。まあいくらパワーメタル寄りといってもまだスラッシュメタルも完全には固まりきってない84年の作品であり(Metal Churchの1stと同期くらいなんですね)、もっと言うなら彼らもドイツ人なので、叙情をよりどころにせずにはいられないといった感じで、メロディ派を置いてけぼりにすることはないと思います。臭すぎないジャーマンメタルをお探しの向きに。