片道切符で飛び乗れ

ダークな世界観が魅力のロックバンド

DIMLIM「MISC.」

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 ちょっと待ってて…と言ってから一週間経ってました…。というわけで2020年ベストアルバムです。前作1stにて一曲だけやけにチャカチャカした音色が印象的なマスロックに無理矢理ディルのうるさいパートをドッキングしたような怪曲「vanitas」(PVまで作っていたことからこの時点で相当手ごたえがあったんだと思う)を収録して一部界隈をザワつかせ、続くTesseracTかというようなシングル曲「離人」でそのマスさ・端正さに更に磨きが掛かり、っていう流れでの本作。最初聴いたときはちょっとデキすぎてて怖かったですね。デス声やヘヴィネスといったディル譲りの鎧(あくまでも鎧であって骨格は元々ディルとは別物であったと思う)を脱ぎ捨てて、テレキャスの硝子トーンをこれでもかと生かしたシャレオツ・バカテク・マスロックがいよいよ全編に渡り炸裂しながら、随所でエレクトロニクスが楽曲を優しく冷ややかにおめかしして近代ポップスにも共振していくような音響を獲得、そして常に楽曲のド真ん中に鎮座するのは歌謡曲ラインのコッテコテの歌メロという、V系領域では前人未踏と呼べる音楽性、その金字塔をいきなり作り上げてしまいました。

 マス~ポストロック~ニカ要素のあるV系というのは彼ら以前にも存在していて、幾つか例を挙げれば、現在はsukekiyoに在籍するメンバーがかつてやっていた9GOATS BLACK OUTやkannivalismカニバ繋がりで最近のBAROQUEなど、これらのバンドはポストロックやニカ要素を高次元でV系マナーに落とし込めていたし、ラッコはかなりマスい作風の大名盤「弱肉教職」(←これは特に今のDIMLIMが好きな人で未聴ならぜひ聴いてほしい)を17年にドロップしています。またV系外では凛として時雨がThe Fall of Troy的なうるさい寄りマスサウンドに90's Vの血をサラっと混ぜて(ルナフェス出演経験有)ロキノン邦ロックに昇華するなどしてました。それでも本作が圧倒的に”新しい”音楽たり得ているのには、大きく2つの要因があると思う。

 まず意外とメタルっぽさが残ってる点。「Funny world」「For the future」「Before it's too late」「out of the darkness」等の曲ではディストーションのかかった厚みのあるリフが聴けるし、ドラムは全体的にかなり近代メタル的な音作りをしていると思う(2バスも結構目立つ)。んで、こうしたメタル要素が軽やかでソリッドなマスの音像に極めて自然に溶け込んでいるのが凄い。思うに重低音を徹底してオミットすることで、ディストーションが前に出る場面であってもそこまでゴテゴテせずに調和がとれているのかなと。こうした配合比率は確かに今まで誰も手を付けてなかったところだと思います。上記した中ではラッコは割とメタル要素ありましたが、DIMLIMが持ってるメタル感はやっぱりDjent通過後のプログメタルのそれで、ラッコとは大きく雰囲気が異なるのも面白いです。

 そしてボーカルですよ。このボーカルを褒めちぎるためにここまで長々と文章を書いてきたまであります。デビュー当初”ホイッスルだけが異様に上手い京のモノマネ芸人”ってな佇まいだった人が、わずか3年程度でここまでの進化を遂げるとは誰が予想できましょうか。その京ですらここまでやらんでしょという超高音域が連発される歌メロを、声の太さも艶もバッチリ残したまま、V系以外の何者でもない節回しでゴッテリ歌い上げており、楽曲の魅力を何十倍にも増幅させています。TK(凛として時雨)があの高音を維持したまま真っ当に歌が上手くなったような趣もある。この超絶ハイトーンはおそらく京に憧れる過程で開発されてったものなんでしょうが、それがディルの呪縛から解き放たれることで真の居場所を見つけるとは、何ともドラマティックな話ではないですか。ハイトーンだけでなく、低域や裏声を交えたウィスパー寄りの歌唱もかつてとは比べ物にならない表現力でこなしており、間違いなく若手V系のシンガーの中でも最上位に位置するスキルを存分に見せつけております。このボーカルの進化があったからこそ、大胆な舵取りに踏み切れた部分もかなりあるんじゃないかと思います。

 本作が(少なくとも自分の観測範囲で)大いに話題になったのは、変化した音楽性というのがツイッターで音楽語りをしたがるようなめんどくさオタク層にウケが良いものだったからというのが大きいとは思うけど、一方でもっと広範囲にリーチするポテンシャルを有した作品であるとも思います。いっそ東京事変と並べて聴かれれば良い…というのは「気付かない者たちへ」の曲調に引っ張られ過ぎてますね。とりあえずここまで上げたバンド名、ミュージシャン名に一つでも引っかかった方は絶対必聴。