片道切符で飛び乗れ

ダークな世界観が魅力のロックバンド

DISH「蝶と独白と残黒」

だいぶ間が開いてしまった…。というわけで今回はこれを。魑魅魍魎が跋扈するヴィジュアル系というジャンルの中でも、とりわけアンダーグラウンド・ダークサイドに振り切れた音楽を指向するバンドが数多く生息している、”手刀界隈”(池袋手刀でライブを行うバンドが多いことからそう呼ばれています)という一派がございまして、本日紹介するDISHはその手刀界隈の一バンドと見なされ(るだけのダークアングラVの素養を持ち)つつも、他方骨太オルタナな感性も持ち合わせ、例えばPlastic Treeなんかが実践しているアプローチとはまた別角度からのV系と非V系のバンドサウンドの歩み寄りを見せてくれる稀有なバンドであります。同期無しの3ピース編成、必殺アップテンポもたまにはやってくれつつ(5曲目のワールドセオリー超名曲!)基本はミッドテンポ、にもかかわらず実に雄弁な楽曲群であることよ。ヘヴィというよりは轟音という形容が似合う類の耳に優しいやかましさ、その合間にチラチラと顔を出すほんのりゴシカル~90'sVIJUARUな暗さがあくまでも手刀の血が流れているバンドであると主張しているようでたまらんですね~。そしてなによりV系オルタナグランジ系のボーカルスタイルの良いとこどりとでも言うべきシヴィさん(gt,vo)のボーカルが最高すぎます。ぶっちゃけこのバンドを聴くときは半分くらいはこのボーカル目当てだと言ってもいい。この人のボーカルあってのDISHです。というわけで、敬虔な手刀ギャ(男)の皆様は当然存じ上げてると思うのでいいとして、V系過ぎないV系をお探しの方(で取り合えずプラとか聴いてみたけど正直ピンとこなかった)とか、V系関係なく取り合えず暗くてほどほどに激しいロックを欲してる人だとかもうみんなマストバイですってことで。

Cenotaph「Riding Our Black Oceans」

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メキシコの古参デスメタル、Cenotaphの2ndです。ちょい前にChaos Recordsなるとこから再発されてたのをポチってまいりました。さてCenotaphと言えばなんと言っても初期デスの旨味をこれでもかと凝縮しながら高い演奏力でもってエキセントリックなアプローチもやってのけた大名盤1stが(レア度的な意味でも)有名で、それ以降はメロデス化して粗大ゴミ、というのが大方の評価でございまして、そう言いたくなる気持ちも分からなくはないんですが、いやいやこの2ndはギリ恰好良いんです!。確かに1stから瘴気や腐臭の類は消え失せ、耳障りの良いメロディが全面に出てきたという事実だけを字面にすればセルアウト以外の何物でもないですが、そのメロディの質は露骨な泣きやクサさに頼るようなものではなく、どこか浮遊感と暗澹たる趣を常に湛えていて、最後までクドさを感じさせずに聴かせてくれます。そこにナチュラルと目まぐるしいの中間くらいの力加減による静動の押し引きが合わさって、メロデスというよりはメロディに気をくばったプログレデスという様相(強いて言うならメロブラに近いとこはあるかも、トレモロリフ多いだけかもですが)。ってこれ、Sentencedの2ndと結構近い質感を有してるんですね。アレが好きな方であれば確実に刺さるものはあるかと。やっぱりこういうやつは”メロデス”じゃなくて”メロディックデスメタル”として愛でていきたい所存であると、面倒臭い決意を新たにしました。

wombscape「ゆめうつつまぼろし」

アートコアを標榜する国産バンドの2018年作。15年にepも出してるようですがそっちはまだ未聴。アルバムタイトルと曲名までは日本語で固めておきながら歌詞は英語(歌詞カードには和訳のみが載っている)という妙な捻くれ方に一聴してまず面喰らいます。一応激情~カオティック的な質感はあるんですが(あとはポストロックか)、あざとい焦燥感アピールやお涙頂戴にはなびかず、基本スロー~ミドルテンポの反復でモノトーンの世界を描いていく様は中々に不気味。暗いは暗いんですが聴き手を完全に突き放す感じではなく、適度な距離感を持って寄り添う暗さとでも言うんでしょうか、やっぱり得体が知れない…。前途の英語詞もある種のミスリードで無国籍感を演出しているともとれ、そう簡単に正体を掴ませてくれる親切さはないですね。こういう音楽性でピンボの人(リーダーでメインコンポーザーだとか)がガッツリ歌い込むというのも珍しい。絶叫もそこそこに渋めのミドルボイスで丁寧にメロディを紡いでいくのが印象的ですが、ボーカルオリエンテッドというには曲に溶け込み過ぎているし、かと言ってボーカルも楽器の一部~みたいなありがちな表現も当てはまらない、独特な立ち位置にある歌い手です。こんな感じで、似ているバンドを羅列しづらい個性を有する一方で、聴きこんでいるうちに段々これは9GOATS BLACK OUTと他人の空似なのでは?とも思ってしまいました。あとは某ディストロでも言われていたけど後期Kularaともなんとなく同質の空気を共有しているような気もします。それってつまり最高のやつではないですか。上記2バンドのファンの方は騙されたと思って是非一度。

Genghis Tron「Board Up the House」

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ちょいと間が空きましたが(今後はこのくらいの更新頻度でやっていけたらいいなと思っております)、今回はこれです。Relapse Recordsよりリリースの、US出身の3人組による08年作。不規則グラインドコアにピコピコなエレクトロをバシかけし、ドゥーミーな展開も時折挟みながら、アンビエントな静パートとの合体技でダイナミズムを演出するというのが大筋で、ピコピコと言えどチャラさを発散する方には行かず、あくまでもシリアスな顔つきを貫くところがリラプス産屈折メタルの矜持でしょうか。十分個性的な内容ではあるんですが、エクスペリメンタルだとかカオティックだとかいう言葉よりも「リラプス!!」という感想が先立つ仕上がりがなんとも微笑ましい。ドラムは打ち込みですがまあこんな音楽性なので違和感なく溶け込んでるし、一本調子な絶叫と虚ろなクリーン声を行き来するボーカルの人も良い味出してますね。合間に小インストを挟んでいくスタイルで、実は全体見てグラインドコア~メタルを実践している時間はちょっと少ないというのが気になる人は気になるかもしれませんが、いやしかしクールに纏まっています。普通に変わり種として勧めてってもいいんですが、甘すぎないメロディを適度な歯ごたえのある激しさの中で摂取したいなんて気分のときにはこの上なく合います。変態というよりはクレバーな佇まい。最後の最後で異形の反復ドゥーム超大作をカマされる頃にはすっかり虜になっている筈。

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そういえばこれ書くにあたってアルバム名で軽くググって初めて知ったんですが、このアルバムKurt Ballouプロデュースらしいです。9曲目にはGreg Puciatoがゲスト参加してるし、結構ちゃんとお膳立てされてたんですねぇ。

Martyr「Warp Zone」

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ヘンテコメタル大国カナダのテクデスバンド。メンバー全員音大出身のエリートさんみたいですね。今はギターの人がVoivodにいることでちょびっとだけ名が知れてたりするのかもしれません。しかし同名のバンドがやたらたくさんいるのでちょっとややこしい。彼ら以外だとオランダのパワーメタルのMartyrとかは比較的知名度あるんでしょうか…。話逸れましたがこれは2nd。ざっくり言ってしまうと後期Deathをちょっと暗めにした感じでしょうか。個人的には後期Death(特に7th)は凄いんだけど明るすぎると感じてしまい肌に合わないんですが(これを言って同意を得られたことがありません…)、そんな折これを聴いたときには「こういうの欲しかった!」と一人で色めき立っていたような記憶があります。Deathよりも一曲がコンパクトなのも嬉しい。その他の相違点としてはほんのりジャズっ気があることでしょうか。あとボーカルはベーシストとギタリストが高低分け合って担当してますがまあテクデスらしくそんなに目立ってないです。リズム構成は次作で一気に複雑になるんですが、この頃は比較的滑らかに進んでいく印象で、適度なメロディも相まって最後までペロリといけます。突き抜けて目立つ曲もない代わりにどの曲も水準以上。通しで聴くことで小気味良い演奏の妙に浸れます。気分にあまり左右されずいつ聴いても楽しめるアルバム。

 

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Forced to Decay「Perkussive Perlokution」

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んんージャケがショボい!自分の中のSNSのアカウントのアイコンに採用したいイラストランキングでこの顔は常にトップ争いを繰り広げてます。ほとんど無名なバンドなのにこのアルバムは中古市場で500円前後で転がってる場面に結構遭遇しますが、それもこのジャケが原因なんでしょうか…。しかしジャケに反して中身は結構聴きごたえあります。彼らはドイツ出身で、このショボジャケは99年発表の2ndにあたります(1stは未所持ですが見た感じそっちもジャケがショボい!)。EbulitionとかGravityとかあのへんのレーベルから出てそうな激情寄りカオティックに通ずる不協和音主体のギターワークと甘すぎない叙情性を持ちつつ、デスメタリックだったりスラッジだったりな重さも見せる、なかなか似ているバンドが思いつかないスタイルです。敢えて似ているバンドを挙げるとNeurosisかな…いやでもやっぱそれだけじゃ説明つかないですね。あとボーカルが結構な頻度でクリーン声を噛ませてくるのもいい感じ。この時代のそんなに有名になれなかったデスメタルや邪道ハードコアなんかに出てくる、あんまり声を張らないぶっきらぼうなクリーン声に僕は凄い魅力を感じてしまうんですが、このバンドのそれも大体そんな仕上がりでツボを突かれます。4曲目とか7曲目なんか全編クリーンで通してます、最高。総じて垢抜けているし十分に個性派ではあるんですが、一貫して結構な不穏さ・暗さを湛え、それなりに激しさはあるのにテンションは突き抜けてこないという絶妙にカルトらしい仕上がり。こういうのが案外一番長く付き合っていけるんですよね~。

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lynch.「AVANTGARDE」

はいみんな大好きlynch.です。新譜もとても良かったけれど、あえて今回は一つ前のリリースに当たるこちらを。いや絶対過小評価されてますよこのアルバム!路線としてはGALLOWSで確立した我流メタルコアを踏襲しつつ、より激しさを増したと言えるもので、メンバー曰くパンクやハードコアを意識したとのこと。勿論本当にハードコア化している訳ではなくあくまでも雰囲気ですが、割とシンプルなリフをガーッとブチ撒けていく様は確かにGALLOWS以降の作品の中ではラフな勢いを感じます。それに合わせてか葉月のボーカルもシャウト・グロウルの割合が多め。んでこのデス声のバリエーションがググっと広がっている印象で、高中低・地声裏声の配合を自在に変えて、歯切れよく言葉を吐き出していくことで、歌メロにも負けないくらいキャッチーなvoラインを形成。今作では特にダミ声でメロディを追うような歌唱が印象的で、4曲目や7曲目ではらしからぬガラのワルーい雰囲気を発散。このガラの悪さは今作のキーポイントの一つだと思ってまして、それは前途したラフさやバッキングの掛け声・シャウトの増加にも現れています。こういうアプローチを取るバンドって近現代V系じゃ少ない気がするし、過去のlynch.の作品でもあまり見られなかった要素ですが、個人的には新鮮な感覚で十分楽しめました。しかし自分の観測範囲ではここに抵抗を示している人が結構いたようで、本作の賛否を分けている最大の要因であるとも言えるかもしれません(そもそもV系だって元を辿ればXしかりでヤンキー文化的なところから始まっている側面もあり、案外V系の本質に立ち返る作業と言えるかもしれない…というこじつけ)。一方で90年代V系的なアプローチによる空間デザインはますます冴えていて、ここに関してはギターの片割れである悠介の貢献が大きいかと。作を重ねるごとに彼の存在ってバンド内でどんどんデカくなってる気がしますが、個人的には今後も彼にはガンガンしゃしゃり出てきてもらいたい…。今作では特に彼作曲のバラード二曲が歴代のlynch.のバラード枠の中でも屈指の出来栄えだと思うのですがどうでしょうか?こういう曲では葉月のもう一つの武器であるクリーン声が本領発揮。ハイトーンがもてはやされる時代において、低音に強みを持つ彼の歌声はしっかり地に足が付いた存在感を放っております。というわけで、AVANTGARDEなどという大層な題目があながち外れてもいない、面白い試み満載の好盤であります(それでも個人的にはやっぱりこのバンドにはアヴァンギャルドという言葉はあんまり似合わないとは思います。決して悪口ではなく)。これを単調だとかマンネリだなんて僕は口が裂けても言えないですよ。ストリーミングでも聴けますし(なんとアマゾンプライムの通常会員アカウントでも聴けます!)、amazonのレビューは一旦隅に置いて、一度聴いてみても損はないんじゃないでしょうか。

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取り合えずここにはSpotifyのリンクだけ。

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