片道切符で飛び乗れ

ダークな世界観が魅力のロックバンド

Helstar「Nosferatu」

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私は元々テクニカルスラッシュが好きなんですが、ここ最近「ボーカルがハイトーンで歌うテクニカルスラッシュと一部USパワーメタルってニアイコールなのでは?」ということに気付いてしまいまして、ああこんな金脈を今までスルーして生きてきた己はなんて阿呆だったのかと。そんな訳でここ最近はUSパワーメタルに結構ドップリだったんですが、その中でも特にグッときたのがこのバンド。心あるメタラーからは惜しみない賛辞を送られているらしい(専門店の通販ページとか見ると大体ベタ褒めです)一方で、そもそもがドライでクサメロや疾走曲といった日本人ウケする記号に乏しいUSパワーメタルの宿命か、少なくとも自分の観測範囲ではあまり有難られている印象はないです。70年代的な枯れ感とは無縁のメタル純正培養っぷり、スラッシュメタルから拾い上げた硬質感、ダークで甘さ控えめなメロディセンスなどはいかにも当時のアメリカってな佇まいながら、この手の大御所Metal ChurchやVisious Rumorsと比べると、このバンドは速い曲が多いのが特徴でしょうか。じゃあもうそれスラッシュメタルじゃんって言われると実際そうじゃね?っていう気もします。やたら演奏が上手くて(これもUSパワーメタルあるある)、テクいキメがそこかしこで炸裂するあたりRealmとかが一番隣人なのかもしれない。なんていうかRealmをちょっと柔らかくほぐしたらこれになるんじゃなかろうか。こねくり回したリフも撒きつつ意外にもテクニックとメロディを両立してるギターは一番の聴きどころで、泣き泣きとかではないものの真っ当にカッコイイです。5曲目のインストとか中々良い出来。後にVicious Rumorsで歌うことになるボーカルもここでは常にバカみたいに高音張り上げってわけではないものの普通に上手くて、ここぞで出てくるハイトーンもバッチリ。何の問題もなく名盤ではあるんですが、全員聴け!と言うにはやっぱり少々ニッチなとこ突いてますね。上に書いたサブジャンル及びバンド名に一つでも掠るところがある人は間違いない内容です。

Opeth「My Arms, Your Hearse」

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スウェーデンが誇る北欧の暗黒神だったらしい人たちの3rd。98年作。いくら暗黒神と言ったってこの人たちの出自はメロディックデスということは動かしようのない事実で、実際1st2ndではまだまだイモい仕上がりだったんですが、名ドラマーマーティン・ロペスが加入し、フレドリック・ノルドストロームをプロデューサーに迎えた本作で一気に洗練化・脱メロデス化が敢行されたのでした。このアルバムからがみんなが知ってるOpethの姿なんじゃないかなと。間違いなく転機作のはずなのにその後のアルバムに比べると語られることが少ない気がしたので、こんな弱小ブログが今更Opethについて書く必要があるのか…という気持ちを抑え、おこがましくも今この文章を書いています。

 さて本作、彼らのカタログの中でも比較的尺がコンパクトで、静動の比率的には動が占める割合がより多めという、メタル的エキサイトメントを最も分かりやすく享受できるであろう内容になっています。故に(Blackwater ParkやGhost Reveriesよりも)入門にはうってつけなアルバムだと思ってるんですが、どうでしょうか?また、意図的にヘヴィ寄りにしてたDeliveranceと比べても、自然体の激しさが味わい深いです。代名詞であるミカエルオーカーフェルトの清濁両刀ボーカルは本作の時点でも十分完成していて、グロウルは言うまでもなく世界最高峰(少なくともスタジオワークに限れば本当に世界で一番グロウルが上手い人の一人だと思う)、クリーン声は後のアルバムほど豊かな表情を見せてくれるではないものの、無愛想で体温低めな歌声はこの時代のデスメタルらしい感じで大変よろしいです(一部でボソボソしたクリーン声を導入するバンド、当時のデスメタルシーンには結構います)。この人のクリーン声はまず声質そのものだけで十分間が持ってしまうのがズルい。そして何より本作を名盤たらしめている名曲Demon of the Fallの存在に言及しないわけにはいかない。6:13というこのバンド屈指のコンパクトさの中にバンドの全てが詰め込まれた、物凄いインパクトを残していく曲です。2:15あたりで一旦バンドサウンドが止み、アコギだけになる→即座に咆哮・2バスとともにデスメタルに戻るっていう一連の展開だけで一体何人が恋に落ちたんでしょうか。バンドに興味はあるけどどこから手を付けるべきか分からない方、Blackwater Parkより前は遡って聴いてないという方、全員買いです。

Blood Has Been Shed「Novella or Uriel」

Killswitch Engageの二代目シンガー 、ハワードジョーンズがそのKsEに加入する前にやってたバンドの1st。00年作。この時点で自分には関係ないなと思った方、もう少し待って下さい!1曲目こそやけに壮大なイントロ~メロデス風リフ~売れ線寄り歌メロっていう曲なんですが、それ以降は極悪なボーカルパフォーマンスと極悪なゴリゴリ・ズクズク・ダウンチューニングリフで全てをなぎ倒さんとする、リキの入った極悪な内容が楽しめます。ニュースクールハードコアとかメタリックハードコアとか呼ばれているやつですね。看板シンガーのハワードは恐らくメロウな歌の実力を買われてKsEに引き抜かれたんでしょうが、ここではクリーン声の使用は最小限で、これみよがしに声を張るような感じではないので、そこまでコマーシャルな印象はなし(それでも十分上手いですけど)。それよりもメインを張る咆哮が凄まじくて、全盛期アンセルモにも迫る太さ・レンジに加え、強い粘りとコシを感じさせる声がとにかく魅力的。この人とかデリック・グリーン(Sepultura)のパフォーマンスを聴いて「やっぱり黒人には敵わねぇ…」という気になってしまうのは多分私だけじゃないはず。曲は基本的にはローミッドテンポ中心ながら、スピードのギアは結構幅広く持ってて、特にドラムは2バスもガンガン踏みながら速く重く猛烈に叩いてます(このドラマーもハワードと一緒にKsEに行ったんですね)。いやーどこを切り取ってもブルータルで素晴らしいっす。サブスクでも聴けますし、多分マケプレで500~1000円で盤も手に入るので、ニュースクールってどんなもん?という方はどうぞ。

Sinner「Touch Of Sin」

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昨日の記事の続きってことで4thです。85年作。一般的には本作がバンドの最高傑作なんですかね。一曲目が妙にヘヴィに立ち上がるので、前作から引き続きパワーメタル路線か、という印象を抱きかけますが、その後はパワーメタル的な馬力をいくらか残しつつも、原点であるThin Lizzyに立ち返ったのか、メロハー好きにもアピールしそうなグッドメロディを備えた楽曲が次々と現れます。物凄く突出した曲というものは無いながらどの曲も粒が大きく、なるほどこれは名盤の佇まいです。当時の同郷のバンドですとStormwitchなんかが近いのかもですが、ボーカルがパワフルな分こっちの方がガツンと来ます。やはりこのボーカルはパワーメタル然とした楽曲でこそ映えるのではとも思いますが、これだけ出来の良いものを提示されると、むしろこの渋めの声だからこそ甘くなりすぎない仕上がりになっている、くらいの解釈で楽しんだ方が得でしょう。気持ち表現力が増してメロウな曲の説得力も上がってる気がしますし。この後バンドは更にアメリカンなポップネスを指向して"そういう”風に洗練されてくみたいですので、哀愁鋼鉄ぶりを楽しめるのはやはり3rd4thということになりましょうか。

Sinner「Danger Zone」

現在はご存じラルフシーパースと一緒にPrimal Fearで活動中のマット・シナーの本丸バンドといえばこちら。ずっと3rdと4thのコンパチを探してて、先日めでたく適正価格での捕獲に成功したのでご登場願いましょう。こちらは84年に出た3rd。所謂ジャーマンメタルというやつですが、Helloweemのようなプロトメロスピ型とも、Acceptのような硬派型とも違うスタイル。Thin Lizzyが最大の影響源だと公言し(国内盤ライナーノーツ参照)、基本的には(当時のドイツ産にしては)そこまで芋臭くない、磨けばメジャー風にも化けそうなメロディラインで勝負するバンドだと思いますが、本作では若干のパワーメタルっ気が加わり、それがマット・シナーの暑苦しい声にはよくハマッていて良い感じです。この人の歌はダミ声で荒々しいという評価を下されがちな気がしますが、当時のメタル水準で言えば十分歌えている方だと思います(ちょっとベルギーのCrossfireのボーカルに似てる)。まあいくらパワーメタル寄りといってもまだスラッシュメタルも完全には固まりきってない84年の作品であり(Metal Churchの1stと同期くらいなんですね)、もっと言うなら彼らもドイツ人なので、叙情をよりどころにせずにはいられないといった感じで、メロディ派を置いてけぼりにすることはないと思います。臭すぎないジャーマンメタルをお探しの向きに。

TERROR SQUAD「Chaosdragon riging」

気付けば1年以上放置してました弊ブログ。自粛期間にでも何か書いたろかと思ったり思わなかったりしているうちに緊急事態宣言も解除され、社会が再び動き出しつつあります。というわけでこちら。TOKYO METAL ANARCHYさんの2nd。2006年の作品。久しぶりに聴いてみたらやっぱり物凄い内容で圧倒されました。圧倒された勢いで書き殴ります。やたらガチャガチャしたリズムや展開はほとんどカオティックコアの域。冴えたメロディによる静パートなんかも結構な頻度で登場し、時にはジャズもどきみたいなとこまで到達、それなんてプログレ○○?ってな雰囲気もあります。これらが基本1~4分台の曲に圧縮されスラッシュメタルのエンジンでマシンガンの如く出力されます。しかし全体の印象は頭でっかち感よりも前へ前へっていう野蛮な勢いが先立つという。なんなんでしょうかこの恐ろしいまでの目つきの鋭さは。確実に言えるのはボーカル氏の貢献がデカい。アツさ、キレ、ハードコア的なヤサグレ感…といったパロメータが軒並み高水準をマークしており、身も蓋もない言い方をすればただただ恰好良い声していらっしゃいます。今作からドバっと導入された日本語歌詞も情感演出に一役買ってて(1曲目の「流れにお前をブチ込め」とか名フレーズですね)、これでちょいメロディ意識したシャウトしてるときなんかはまんまジャパコアに聴こえる。そうなってくると随所に出てくるメロディの数々もジャパコア由来なものに聴こえてきます。ああ最高。これを唯一無二と呼ばずしてなんと呼びましょうか。なんかあまり売ってるとこ見かけないですが物販とかにはまだあったりするんですかね。あ~一度ライブ観てみたいな~。

Gridlink「Longhena」

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僕はDiscordance Axisが好きです。そしてMortalizedが好きです。つまりはGridlinkが好きであるということであります。昔、グラインドコアというジャンルはTerrorizerの1stが世に出てからそれ以上の洗練はほとんどない、という見解を示す方を見て「実際その通りな部分はあるよな~いやまあ普通にそれ以降に出た好きなアルバムもたくさんあるけども」なんて考えたりなかったりということがあったんですが、DxAxとその周辺・関連バンドはそうしたグラインドコアの本流からは逸脱した進化を遂げたように思います。よく言われていることとしては”サイバー感”。グラインドコアと呼ぶには少々小綺麗で、どこか涼しく理知的、そしてドラマティック。そんな説明が厄介な音像を相手に説明してなんとなく納得させなきゃならないシチュエーションにおいて、このサイバーという形容はそれなりに有用なものであるようです。そこでこのGridlink、前途2バンドのメンバー含む日米混成集団による14年発表、3rdアルバム(そして現状のラストアルバム)に当たる本作は、ジャケットに印象を引っ張られている可能性も無きにしも非ずですが、確かにサイバーな世界観を漂わせております。Mortalized松原さんによるトレモロリフを主体としたギターワークは、Mortalizedよりも、そしてDxAxよりもメロディック。最早メロディを導入することに対して一切の戸惑いはなく、ここまで自信をもって提示されると頼もしさすら感じます。そのトレモロ活用も例えばブラッケンドだとか呼ばれてる人たちとは全く別物。Mortalized時代から相変わらずこの方の奏でるメロディというのはどこ由来なのか特定するのが難しいです。そしてバンドの首謀者、親日グラインダーJon Changはガテラルこそほとんど封印しているものの、あの何かに追われているダニフィルスとでも言うような、DxAx時代から変わらぬキレッキレのハイピッチスクリームを響かせています。このバンドは恐らく、DxAxやMortalizedよりも聴きやすく、より広くアピールしうるものなのだと思います。しかし聴いている間にくすぶる焦燥感、そして聴き終わったあとの一抹の寂しさはなんなのでしょうか。聴き進めるうちに小さな焦燥感が生まれ、それが徐々に大きくなっていく感覚がどうにもあって、そのうちに自分を置いてどこか違う世界へ行ってしまうのではないか、そんなことを考えてしまう自分がいます。まだ聴いていたい、行かないでほしい、自分もそちらの世界に連れて行ってほしい。その世界こそがサイバーワールド的なあれなんでしょうか。聴いていてこんな心持ちになることはDxAxでもMortalizedでも、それ以外の音楽でもなかった。ある意味得難い体験なのかもしれません。

handshakeinc.bandcamp.com